会長挨拶

-社会の変化に備える防災と火災学会-


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第31代会長 鶴田 俊

日本の学術活動の成果が、国際的指標で見ると低い順位となっているとの指摘をしばしば受けています。国際化を目的として英語表記を拡大する分野が増えてきています。火災学会では、日本語表記を比較的広く採用しています。日本が明治時代に西洋から科学技術を導入したとき、当時の技術者が日本語による用語を作成、普及した成果です。火災分野では、日本語による現象記述を十分に行うことが出来ます。木と竹と紙でできた家が密集した大都市を江戸時代に建設し、度重なる火災や地震の経験から防火技術を作り上げてきた成果だと思います。日本語で学術論文等を記述することにより、会員と防災業務に従事する人々に迅速に情報提供できます。

2023年5月アルコールを焚火にそそぎ、火災となり、死者が発生する事例が報道されています。火災の詳細については、調査が行われている段階であり、事実確認までには時間を要します。
アルコールは、ガソリンや灯油に比べると青白い火炎であり、視認しにくいです。そのため消炎したものと誤認し、アルコールを補給、アルコール蒸気に引火、容器破損等により火傷を負う事例が米国で複数報告されています。悲劇的事故を予防する目的で米国化学安全委員会(CSB)は、”After the Rainbow”と題したビデオを公開、安全優先を呼び掛けています。
アメリカ熱傷協会(ABA)は、火に可燃性液体を注ぐときに起きる可燃性蒸気燃焼による可燃性液体噴出火災”Flame Jetting”を米国公共放送(PBS)、アメリカ化学会(ACS)、米国アルコール・タバコ・銃器・火薬局(ATF)の協力により、啓蒙ビデオ” Small Bottle, HUGE Fireball (How Flame Jetting Works)”にまとめ、公開しています。
このビデオは、可燃性液体噴出火災予防のための自発的対策を促す法案” The Portable Fuel Container Safety Act of 2020”の成立に寄与しています。実験ビデオが米国アルコール・タバコ・銃器・火薬局サイトの” Gasoline Flame Jetting Videos”に収録されています。
米国では、誤って可燃性液体を取扱い、火災となっても被害軽減する自発的対策が進んでいるようです。米国には、懲罰的損害賠償制度があることから自発的対策が進んでいるようです。日本とは、社会背景が異なることは注意する必要があります。

英国の高層住宅で火災が発生し、大きな被害が発生しました。この火災について公聴会が行われ“REPORT of the PUBLIC INQUIRY into the FIRE at GRENFELL TOWER on 14 JUNE 2017”が、公開されています。高層建築物を大都市域内に建設、都市で働く人に低価格で居住できる仕組みを作り出しましたが、その過程でリスク評価を十分に行えなかったことと火災時に消防機関が情報収集に苦労したことが、迅速な避難や救助が出来なかった原因とされています。大規模災害が起きたとき、事実を検討し、どの要素が災害の拡大や終息に寄与したかを確認することは社会にとって重要です。

建築物は、それぞれの国の生活様式を反映します。そのため、国際的に一律に建築物を考えられるわけではありません。気候風土が異なれば、建築物も異なることになります。これに加え日本社会特有の問題、少子高齢化が急速に進行しています。核家族から高齢独居者の居住へと変わります。この変化に備えるためには、火災学会会員の皆様が業務を通じて体験した事柄を火災学会で情報交換、討論することが必要です。課題を抽出し、有効な対応策を提案・発信できれば日本火災学会の使命を果たすことになります。

2023年6月の日本火災学会会誌「火災」特集は「火災安全分野で活躍する女性 ~ジェンダーフリーに向けて~」です。平成16年消防消第53号「女性消防職員の警防業務への従事に係る留意事項について(通知)」検討中の時代や東京大学環境安全センター在職中に中西準子先生から伺った話を思い出します。女性の視点で火災安全分野を見ることで新たな防火手法が出てくることを期待しています。

火災分野に携わる皆様の能力を十分に発揮できるよう火災学会関係者一同学会運営を担当させていただきます。皆様の学会活動への参画をお待ちしています。