2025年1月16日 米国カリフォルニア州モントレー市電力貯蔵施設火災に関する感想

2025年1月16日に米国カリフォルニア州モントレー市に設置された電力貯蔵施設で火災が発生した。1月21日には火災が沈静化し、"Current Emergency Information"のページでモントレー郡監督委員会に提出された災害と対応経過のスライドが掲載された。

カリフォルニア州は二酸化炭素削減を行いながら情報産業の発展を図っている。米国はエジソンの電力商業化の技術開発を大きな柱として発展してきた。安定した環境負荷の小さい電力を基礎とする社会を構築するために先進技術開発を継続してきた。再生可能エネルギー、原子力エネルギーを利用し、揚水発電や電池などによる電力貯蔵を開発するだけではなく送電ネットワークに接続、運用している。

モントレー市はカリフォルニア州の中央部に位置し、北側にサンフランシスコ市、南側にロサンゼルス市がある。そのため大型火力発電所が立地し、両大都市に電力を供給するノードとなっている。サンフランシスコ市南部には情報産業が集積しているシリコンバレーがある。半導体の製造は、台湾、韓国に位置しているが情報技術開発を推進するためには大規模データセンターを立地させ、多くの研究施設を稼働させる必要があることから電力供給の安定と二酸化炭素排出低減の目的で市内の大型火力発電所を廃止し、タービン建屋の内部空間や敷地内に電力貯蔵設備を設置、運用を行っている。今回火災の発生した施設以外にも既設の送電ネットワークを活用する目的で複数の大規模電力貯蔵施設が立地している。

今回火災となった施設について300MW Phase Iと記載されている。"LG Energy Solution’s New TR1300 Operational at World’s Largest Utility-Scale Battery Energy Storage Project"の表題で公表された資料を見ると特徴がわかる。特徴としては、1)貯蔵設備は電池パックをラックに組み込んで出荷し、現地作業省力化、2)JH4と呼ばれる高エネルギー密度の採用電池、3)ラックは電力貯蔵設備の熱暴走火災拡大評価試験UL9540Aを行って隣接ラックへ延焼しないことを確認、4)ラックの設計は" the California Building Code following the American Society of Civil Engineers' ASCE 7-16"の耐震性を確認している。タービン建屋の内部空間を利用するためにラックを二段に積載して設置している。

電力貯蔵に用いられるリチウムイオン電池は、電気自動車用と比べると重量や体積密度を緩く設定できる一方、信頼性が求められる。JH4セルは日本で使用されているリチウムイオン電池とは異なっているようである。かつてリン酸鉄リチウムを電極活性物質に使用したA123システムズの開発した技術が同社の倒産後に中国企業に売却され中国で開発が継続されているようであるが詳細は不明である。2014年の"NEC、中国万向集団からA123社の蓄電システム事業を買収"との報道発表を見ると日本企業へ移転し、2022年の"LGES completes acquisition of NEC Energy Solutions to expand capabilities in ESS value chain "を見ると韓国企業へさらに移転している。今回の火災を起こした施設のセルの製造国特定は難しいようである。ラック製造は韓国企業によって行われたと米国では見られているようである。今日の製造産業のグローバル化により製造国の意味が不明確となっている。

セルの構造は不明であるが火炎が建物の上部から噴出していることから有機電解液が使用されていたと推定できる。リン酸鉄リチウムを電極活性物質に使用していた場合、還元性雰囲気であれば吸熱して熱分解する。"Thermal Evaluation of LFP Li-Ion Battery Cathodes Using Simultaneous DSC-TGA (SDT)"を見ると熱分解で生成した微細な鉄が空気中で反応し、酸化が継続して進行する560℃近傍の発熱が継続する。微細鉄粉のカルボニル鉄を空気中で加熱着火させると周囲の酸素を取り込み反応が進行、燃え拡がる現象を観察できる。リン酸鉄リチウムは、リチウムイオン電池の熱暴走抑制には有効であっても一定程度以上の火災によりリン酸鉄が分解すると生成した微細粉鉄が燃え拡がり、延焼すると考えられる。電解液の火災が拡大すると大量の微細鉄粉が生成、周囲から酸素を取り込み発熱が継続すると考えられ鉄酸化物焼結体が生成していると思われる。強力な磁石を持参して現地調査を行えば検出可能と思われる。

このような大胆な仮説を基に今回の火災を眺めると火災により建物内の冷却能力を上回る発熱が生じると電池が加熱され、有機電解液が気化し、火災や爆発を起こし、建屋の上部鉄骨構造が500℃以上の温度に加熱されると公開されたスライドの写真のように崩れ落ちる。この温度では電極活性物質も分解し、微細な鉄粉が生成、酸化発熱が550℃程度で継続すために屋根が完全に崩壊し雰囲気温度が十分に低下するまでは鉄粉の延焼が緩やかに継続し、火災鎮静化に長い時間が必要となる。

今後、現地当局が詳細な調査を行い低炭素社会実現に向かってカリフォルニアの社会が努力を継続するとおもう。今回は、私の独善的な視点から可能な限り得られる資料で考えたことを急いで取りまとめた。皆様のご意見を研究発表会等で伺うことを楽しみにしています。

日本火災学会会長 鶴田 俊

2025.1.24