2025年9月 東京 モバイルバッテリー火災
2025年9月25日リチウムイオン電池が発火し,マンションの区画が焼損する事故が発生したことが報道された。補助バッテリーとして広く普及し、情報端末を常時利用するためには不可欠なものである。電力容量(37 Wh)から大容量(74 Wh)だけではなく,更なる大容量(250 Wh)も販売されている。スマートフォンだけではなくPCの補助電源として持ち運んで利用可能であり,イベントなどでコンセントが利用できないときにも利用されている。
リチウムイオン電池が昇温した場合の発熱挙動を調べた実験1)によれば、数秒以内で200 ℃から600 ℃まで上昇している。リチウムイオン電池が発熱するとき電極活性物質である金属酸化物の温度が上昇する。500 ℃以上に達すると金属酸化物から酸素が分離し,電池内の炭素や樹脂と反応,高温気体と赤熱微粒子を噴出する。このとき周囲の可燃物に着火すると火災が急激に成長する。電池の温度も600 ℃に達し,熱容量も大きいために周囲の可燃物が着火することになる。電池内部の電極にはアルミ箔が使用されており,電池内の金属酸化物とテルミット反応を起こし発熱が継続する。複数の電池セルが組み合わせられたものの場合,電池セルが次々と熱暴走を起こすことになる。
リチウムイオン電池は,電動工具,移動通信機器,電動移動手段を提供し,快適な社会を作り出している。一方で身の回りにあるリチウムイオン電池が発火した際に大きな被害が出ないように注意する必要もある。不要となった電池は,適切に処理しなければ廃棄物処理施設の焼損,電動郵便配達バイクの焼損を引き起こすことを実感する時代となっている。
2025年9月29日 前日本火災学会会長 鶴田 俊
参考文献
1) 鶴田 俊:火災時のリチウムイオン電池の燃焼挙動、消防輯報53号、pp.8-11、2000
なお、リチウムイオン蓄電池の火災安全については、2023年10月の学会誌「火災」に特集を行っております。「火災」の記事は,本会のホームページから検索することが可能です。記事のPDFファイルの閲覧には会員専用の閲覧IDとパスワードが必要です。
火災 386号 (Vol. 73, No. 5, 2023) 2023年10月
<特集:リチウムイオン蓄電池の火災安全>
前文/火災誌編集小委員会(13)
製品事故情報から見えるリチウムイオン電池関連製品事故の実態/神山敦,諏訪正廣,川上正之(14)
リチウムイオン電池に起因した火災事例/武石吉生(20)
リチウムイオン蓄電池の消防法上の規制及びその見直し/岡田勇佑(24)
リチウムイオン蓄電池の基本原理と火災リスク要因/藪内直明,宇賀田洋介(30)
次世代リチウムイオン蓄電池の安全性とエネルギー密度向上/宇賀田洋介,藪内直明(36)
電気自動車火災に対する高膨張泡消火装置の効果について/鈴木陽介,太田垣二郎(41)
電気自動車の普及と高速道路保全業務実務者のための火災事故知識/横田昌弘(47)