2025年11月 香港の高層共同住宅火災
2025年11月26日香港新界大浦区で発生した火災は、32階建共同住宅7棟に延焼し、約43時間後に鎮火しました。報道によれば死者は150名以上と推定され、今なお行方不明者の調査などが進められています。この火災によりお亡くなりになられた方々の御冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
これほどまでに大規模の被害をもたらした原因については、今後の調査により明らかになると思いますが、これまでの報道によれば、竹の足場や安全ネット、窓を覆っていた発泡スチロールが急速に燃え広がり、屋内への延焼拡大につながったと考えられます。また、火災報知設備が作動しなかったため、住民の避難が遅れたことも被害を大きくした要因と考えられます。
今回のような高層共同住宅がほぼ全焼するような火災は、例えば、2017年に発生した英国のグレンフェルタワー火災1)があります。建物の外装パネルを介して急速な上階への火災拡大が発生しました。また、1996年に発生した広島市基町の高層住宅火災2)では、9階で発生した火災が上階に延焼し20階までの16戸が被害を受けました。これはバルコニーに設けられた可燃性のアクリル製手すり板が激しく燃焼したことが主な原因です。高層共同住宅では火災が多数発生していますが、このような複数階に延焼した事例はそれほど多くはありません。例えば、1989年の東京都江東区の28階建共同住宅の24階で発生した火災3)では、出火した住戸と共用廊下の一部等の局所的な焼損におさまりました。このように日本では高層共同住宅が全焼するような危険性が極めて低いと考えられますが、そのためにはそこで暮らす人々も、火災安全に関する適切な知識をもつことが重要です。以下に、高層共同住宅の防火対策の要点を示します。
① 出火・延焼拡大防止対策
高層建物では消火や救助活動が非常に困難となるため、出火および延焼拡大を防ぐことが重要になる。コンロなどの火気管理により出火を防止し、内装の不燃化および防炎性のあるカーテンなどの使用、さらにスプリンクラー設備が初期消火に効果がある。また、火災を住戸内閉じ込められるように、耐火構造の床と壁、防火戸により防火区画が設けられている。防火戸が確実に閉まらなければ延焼拡大する危険がある。
② 避難対策
火災発生を迅速に覚知し住民に知らせることは、初期消火や安全に避難する上で重要である。各住戸に設置された火災感知器が作動すると、警報音や音声によって住民に非常を知らせる設備が設置されている。
火災による死者の原因の多くは煙である。火災の煙が廊下や階段に流入すると、出火した住戸以外や他の階からの避難に支障が生じる。特に、階段を火災の煙から守ることが重要であり、階段室の防火戸が確実に閉まるように適切に維持管理することが求められる。
また、住戸の出入口近くで火災が発生すると、火災住戸からの避難が困難になる。万が一の場合に備えて、バルコニーなどから隣や下階へ脱出する手段も用意することが望ましい。
③ 消防活動のための対策
高層建物での消火・人命救助活動は、消防隊員にとって非常に負担の大きい危険な作業である。消防隊員の移動や資機材の移送のため、非常用エレベータが設置されている。また、地上階から水を送る連結送水管など、消防活動上必要な設備が設けられている。
2025年12月3日 会長 萩原一郎、監事 山田常圭
【参考文献】
1) 関澤愛:「ロンドンのグレンフェルタワー火災が喚起したこと」 火災 Vol.68 No.4, (227号) pp.36-41, 2018.
2) 田村義典:「広島市基町高層住宅火災の概要」 火災 Vol.47 No.2, (355号) pp.1-8 1997. (本号は<特集:広島市基町高層住宅火災> )
3) 室崎益輝:「超高層住宅火災と防災計画」火災 Vol.39 No.6, (183号) pp.14-20 1989.