会長挨拶
-原点に立ち返り,これからの学会活動を見直す-
2025年5月の臨時理事会において,日本火災学会第32代会長に選任されました。任期は2027年5月の総会までの2年間になります。
最近の火災事例について,学会のホームページでも紹介しております通り,従来と異なる傾向があるように思います。2024年1月に発生した能登半島地震では,多数の家屋が倒壊し津波による被害が発生しただけでなく,多くの火災が発生しました。なかでも石川県輪島市川井町の朝市通りで発生した大規模火災では,学会の調査によれば全焼が249棟,焼失面積は約52,000 ㎡にも及んでいます。同じように2016年12月には新潟県糸魚川市大規模火災が発生しています。また,2025年2月には岩手県大船渡市において大規模な林野火災が発生しました。飛び火による延焼拡大が生じ,消火活動が困難な状況となり鎮火までに1月以上かかりました。このような大規模火災は,従来地震による火災を除けばほとんど発生しないと考えられていましたが,今では日本中どこでも発生する恐れがあります。
また,蓄電池が関係する火災事例も増えています。2024年6月には韓国のリチウム電池工場で火災が発生し,23人が死亡しています。東京消防庁の調査によれば,2023年中に167件のリチウムイオン電池を使用した製品から出火しています。モバイルバッテリー,携帯電話,電動自転車など身の回りの電気製品から出火するとなれば,いつでもどこでも出火の危険を考えておくことが必要になります。
このような火災被害を軽減するためには,様々な視点からの検討が必要であり,中でも日本火災学会の果たすべき役割は大きいものと考えております。
そもそも本学会は,1923年の関東大震災により甚大な被害を受けたことから,火災に関する科学的な研究が進められ,様々な実験などが盛んに行われるようになり,その成果を発表・討議するために設置されました。当時の会則第1条には「本会は火災現象,防火及消火に関する研究,調査を行い,火災による損害の軽減を図ることを以て目的とする」とあります。また,第4条には「本会の事業の一つとして,会誌の刊行」が規定されており,学会誌「火災」の創刊に際して,内田祥三初代会長は「会員各位の調査,研究や意見は勿論,火災,防火,消火に関する事項は広く一般からもとつて本誌に掲載して,会員各位の便に供すべき」と述べられております。この学会設立の原点であるこの精神をこれからも引き継いでいきたいと思います。
そのためには,これまでの学会活動では不十分な点があるかもしれません。毎年の活動計画を淡々とこなすのではなく,常に見直し,より良くするための努力が必要です。先に述べたような新しい課題に取り組むとともに,その成果を広く社会に発信することを進めたいと考えています。
学術専門委員会の下には,既にいくつもの専門委員会が設置され,活発に活動を行っておりますが,その成果が十分に社会に発信されることを期待しています。また,既存の専門委員会がカバーしていない課題に取り組む新たな専門委員会を設置するなど,更なる充実が望まれます。さらに,学術的な研究成果だけでなく,社会への応用,技術開発,教育・普及などを通じて,火災による被害の軽減につながる活動を進めることも重要です。
情報発信のツールとして,昨年から新しい学会のホームページの運用を開始しました。これまでは会員向けの情報の掲載が中心でしたが,新しいホームページでは広く一般の人も関心が持てる内容を増やし,活動成果を社会に広めることを期待しています。例えば,最近の火災事例の紹介や解説,火災の基礎知識に関する記事などの準備を進めています。
また,5月の総会でもご説明しました通り,現在,学会の財政改善と情報化による業務改善を進めております。特に,業務を効率化するために,今年4月から新しい会員管理システムを導入し,自分で登録情報の更新や会費のオンライン決済ができるようになりました。学会ホームページから会員マイページを利用するにはメールアドレスが必須ですので,まだ登録されていない方は登録をお願い致します。
最後になりますが,会員の皆様の益々のご活躍を祈念し,皆様のご期待に応えられるよう努める所存です。よろしくご支援をお願い申し上げます。